第1回 中小企業も新規事業を創ろう!
6年前に大阪産業創造館様でコラムの担当をさせていただいたのですが、当時とはビジネス環境がかなり変わっていることもあり、今回全面的に書き直すことにしました。
第1回目としては、「中小企業も新規事業への取り組みを真剣に考えよう」ということを書きます。
6年前と比較し、大企業様から新規事業の相談をいただく機会が増えてきました。 低成長の日本企業のことを考えると、本業だけで業績を維持することは難しいと気付く企業が増えたことが背景にあるように感じます。
低迷する経済の影響は大企業以上に中小企業に大きくインパクトを与えます。下請けとしてビジネスを行っている中小企業の場合には元受けの業績に大きく影響され、今後かなり不安定な経営になっていくでしょう。
中小企業にとって、今のビジネス(以下、現業と表現します)を実直にやり続けることは当然ながら最も重要なのですが、中長期の視点で見た場合、これまでと同じ成長を描けるのか、さらに言えば今の業績を維持できるのか、という点を経営者は考えるべきです。
もしも、今後もこれまでと同じような成長を描ける、というならば新規事業を考えるよりも経営資源を現業に集中して業績を伸ばしていった方が合理的でしょう。
しかしながら、ほとんどの中小企業にとっては本業だけで業績を維持するというのは簡単ではない時代が来ています。
このような厳しい状況を打破するため、新規事業を検討することを強くお勧めします。
中小企業が新規事業を進めるメリットは大きくは以下の3つがあります。
- 本業に加えて新たな収益源ができ、収益構造が多様化し安定する
- 将来の経営人材を育成することができる
- 新しいことを始めることで組織文化が活性化できる
本業に加えて新たな収益源ができ、収益構造が多様化し安定する
先にも述べた通り、今の日本経済を取り巻く環境は、少子高齢化、実質賃金減少による個人消費の低迷など決して楽観できる状況ではありません。
来たるべき人口減少時代を考えると多くの業界で市場規模は縮小することが予想されます。
これは、同じ事業のみを同じモデルで続けていく限り業績が伸びる可能性は低いのではないかと思われます。 (競合からどんどんシェアを奪わなければ現状維持すら難しくなります。ただし、競合も同じことを考えるはずなので競争はどんどん厳しくなっていくでしょう)
この打開策の有力な候補の一つが新規事業の立ち上げです。
新規事業が成長してキャッシュを生み出すステージまで成長すると本業と新規事業の2本で収益を生み出すことになり、安定的な財務構造を作りだすことができます。
一般的には新規事業が収益化するまでには一定の期間が必要で(例えば3年とか)その期間は赤字を出すことになります。
この期間は現業から生み出されるキャッシュフローを活用して新規事業を育成します。プロダクトポートフォリオマネジメント理論を考えればイメージしやすいでしょう。(現業でキャッシュフローを生み出していないならまずはそこの改善からですが)
ただ、「そうは言うけど新規事業の育成はそんなに簡単ではないだろ」という意見もあります。それはその通りで、簡単ではありません。
しかし、ニーズが多様化する昨今において、ニッチであっても時代に合ったビジネスを中小企業が創り出せる環境は整いつつあります。
中小企業が実施する新規事業の場合、数千億円規模のビジネスを作る必要はなく、数十億、小さければ数億円のビジネスを作るだけでも良いというケースがほとんどです。
この規模であれば、市場のごく一部のニーズを捉えるビジネスを作り出せれば実現可能です。
また、AIやIoT等、テクノロジーの急速な進化は中小企業が新規事業に取り組むための資金的負担を大きく減らすことに貢献しています。
加えて、SNSの発展は中小企業であっても多くの人に認知してもらう機会を与えています。
さらに、新ビジネスに取り組む中小企業に対する政府の支援もあり、環境としては整ってきていると言えるでしょう。
確かに、これらのプラスの環境変化があったとしても新規事業の創出は簡単ではありませんが、何もせずに緩やかな衰退を待つくらいなら、新しことにチャレンジして成長を目指す方が結果として企業の持続的成長につながります。
将来の経営人材を育成することができる
帝国データバンクが2020年に実施した調査によると65.1%の企業が後継者不在という問題を抱えています。
後継者が見つからなければM&Aで会社を売却することも可能(弊社でもサポートしています:宣伝です)ではありますが、満足いく条件で売却できるかどうかは実際にはやってみないとわからないというのが現実です。
それであれば自社で経営人材を育成して、会社を成長させ続けるほうが合理的という考えも納得できます。
しかしながら、経営人材を育成することは簡単ではありません。
ある部門の責任者を任せたとしても、経営に必要な知識を網羅的に経験できるかどうかは不明確です。特に、資金管理(調達、運用の両面)を経験することは既存事業の中では稀でしょう。
一方で、小規模でも一つの事業を自ら立ち上げ、重要な意思決定をし、損益を含めた責任を持たせて、経営をさせてみることが経営者感覚を身に着けるうえでの効果的な訓練となります(当然ながら人事制度設計にも工夫が必要ですが、この点は後日このコラムで述べたいと思います)。
もちろん新規事業が失敗すると大きな財務的損失が出ますので教育目的だけで新規事業を推進することは賛成できません。しかし、次世代の柱となる事業を作るチャレンジをしながら将来の幹部を育成するというのは極めてリターンが高い取り組みと言えるでしょう。
まずは次世代の経営者候補を選抜し、その人材に新規事業立ち上げから推進を経験してもらいましょう。
セミナー事業をやっている私が言うのも変ですが、どんな高額セミナーに行くよりもこの取り組みの方が後継者問題を解決することに直接繋がると考えます。
(そもそも後継者候補になりそうな人材がいないというお悩みを聞くこともありますが、その場合は採用や教育全体を見直す必要があるかもしれません、、、。)
仮に、その新規事業がうまく行かなかったとしても、「なぜうまく行かなかったのか」「何が想定と違ったのか」等を冷静に振り返ることで、次のチャレンジの成功確率を高める教訓が得られます。この教訓は次の経営人材育成という視点のみならず、全社として、高度なノウハウ蓄積につながります。
新しいことを始めることで組織文化が活性化できる
コンサルティングの現場で時々経営者の方々から
「うちの社員はみんな安定志向で自分で何かをやろうとしない」
「みんな真面目に働いてくれるのは良いのだけど、チャレンジしようとしない」
等のお話を聞くことがあります。
人事制度にも関連しますが、多くの日本企業の人事制度がチャレンジするよりも失敗をしない人が昇進するようになっているので、社員が安定志向やチャレンジを避けるというのは当然と言えば当然かもしれません。
新規事業創出制度を作れば社員のマインドを変化させるきっかけを作ることができます。
「リスクをとって新しい事を生み出すことが価値なんだ」ということを社長がリーダーシップをとって発信すると、従業員のマインドも少しずつかもしれませんが変化していきます。
大企業の場合、新規事業部門が既存部門から冷たい目で見られるというのはよくある話ではありますが、中小企業の場合、社長からの後押しがあれば既存部門からの協力が得られやすい環境をつくることも比較的容易でしょう。
ただし、失敗したからと言って新規事業担当者がその後冷遇されるようなことがあると、益々保守的な文化醸成を進めていますので、継続的にチャレンジを後押しする取り組みが必要です。
チャレンジをしたが計画通り行かなかった場合でも冷遇しない、チャレンジが成功したら全社的に称賛してくれるような文化ができれば安定志向ではなく新しい事にチャレンジする文化が醸成され、組織が活性化されます。
以上、新規事業創出の必要性を
- 本業に加えて新たな収益源ができ、収益構造が多様化し安定する
- 将来の経営人材を育成することができる
- 新しいことを始めることで組織文化が活性化できる
という観点から述べてきました。
「会社の持続的な成長をより確実なものにしたい」、とお考えの経営者の方は、是非新規事業への取り組みを検討してはいかがでしょうか。
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