第33回 中小企業向け オンラインテクノロジーの活用法 - その1 営業編
新型コロナウィルスによる経済活動の自粛はようやく前進の糸口が見えてきました。しかし、完全回復にはまだまだ時間が必要であり、この時期を乗り切り、次の成長への土台作りができるかどうかは企業の数年後の業績に大きく影響を与えるでしょう。今後の経営環境はこれまでとは大きく変わる可能性が高く、その変化に対し、迅速、かつ適切な決断を繰り返し、愚直に実行していくことが経営者に求められます。
オンラインテクノロジーの活用は、まだその活用が十分ではない中小企業経営者にとって、導入を決定すべき重要事項の一つであると言えます。ここでいうオンラインテクノロジーとは、インターネットを使って今までリアルでやっていた業務をリモートでできるようにするテクノロジーと、広い意味で使います。テレワークやリモートワークについてもこの中に含めて考えます。
パーソル総合研究所が2020年4月10日から12日に実施した調査によると(https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html)、テレワークの実施率は全国平均で27.9%と、同年3月9日から15日に実施した調査結果の13.2%から倍増していることがわかります。私も回りでは、「リモートでも思った以上に実施できる仕事の幅が広い」と気が付いた人が多くいます。
一方で企業規模が小さくなればなるほどテレワークが普及していないということも同調査では示されており、従業員100人未満の企業でのテレワーク実施は16.6%と、平均を大きく下回る水準にとどまっています。
「テレワークで行える業務ではない」とうい理由が最も多く、業務の中ではテレワークへの切り替えが難しいものがあるということは理解できますが、一方で、「テレワーク制度が整備されていない」や「テレワークのためのICT環境が整備されていない」といった制度面、あるいはインフラ面の課題がテレワークの推進を妨げているということもわかります。
今回のコラムでは、コロナ終息後も経営環境が厳しくなると予想される中で、中堅・中小企業がテレワークを含めたオンラインテクノロジーを有効に活用する3つの方法のうち、営業面での活用について述べます。
営業面で期待できる効果として
「営業活動の時間効率化」
「社内業務のための時間効率化」
「営業品質・教育の強化」
の3点が挙げられ、以下順番に解説していきます。
〇営業活動の時間効率化
以前、ある中堅企業から「営業力に課題を感じており、なんとか強化できないか」と相談を受けた際、現状分析の一つとして、営業マンが実際に顧客と直接会話をし、提案活動を行っている時間を計測したことがありました。全営業マンを平均すると直接顧客と提案・受注活動に使っている時間は全勤務時間の中の3割にも満たないという結果が出たことがありました。つまり、全体の7割以上の時間は直接には売上や粗利獲得に結び付かない活動を実施していたということになります。また、成績の良い営業マンほど、顧客への提案・受注活動に使う時間の割合が多いということもわかりました。
その際の分析でも明らかになったことですが、営業マンが多くの時間を奪われているのは、客先への移動や日報や業務報告といった事務作業や会議出席のための移動でした。
確かに顧客に提案活動をするためには訪問することが必要なので客先への移動はこれまでの営業活動では不可欠でした。しかし、その訪問の一部をオンラインに移行することで移動時間の削減が可能になります。
実際、このコロナ禍でやむを得ずオンラインを活用してみると、意外と効果が高いと感じている営業マンは多いのではないでしょうか。もちろん電話で対応するということも不可能ではないですが、顧客の表情を見ながら話した方がコミュニケーションをより深めることが可能になります。
今まで顧客とのコンタクト回数が十分でなければ、今までの訪問に加えてオンラインでのミーティングを加えることで時間的負荷を最小限にコンタクト回数を増やすことができるようになります。
また、既に十分にコンタクトできている場合は訪問の一部をオンラインに変更することで(例えば3回訪問のうち1回はオンラインで実施等)コンタクト回数を減らすことなく余剰の時間を作り出すことができ、他の活動(例えば新規開拓等)に作り出した時間を割り振ることができます。
※ただし、全ての営業をオンラインに切り替えることは顧客との関係を維持する上ではお勧めしません。業種によってはオンラインへの抵抗が極めて少ない場合もあるかと思いますが、ほとんどの業種ではあくまで一部をオンラインに切り替えるというレベルから段階的にスタートするのが良いでしょう。
このようにオンラインテクノロジーを活用することで、営業マンは「顧客に提案して受注してくる」という営業マンとして最も重要な活動に投入する時間の割合を上げることができ、全社としての顧客基盤の強化につながります。
オンラインで営業するということに抵抗感を感じる中小企業があるかもしれません。しかし、これまでの付き合いの中で顧客との関係がある程度できていればオンラインでの営業は提案してみる価値がある施策です。顧客側も今回のコロナ禍でオンラインの有用性に気が付いている企業は多くあります。特に、先の調査結果からもわかる通り、大企業ではオンライン活用が進んでいるケースが多く、オンライン営業の提案を受け入れてくれる可能性は十分にあるでしょう。仮に顧客が難色を示せば今までの営業を継続すればいいだけなので、提案をしてみること自体、大きなリスクは伴いません。
〇社内業務の時間効率化
オンラインテクノロジーを活用することによる時間の削減効果は顧客への移動時間にだけでなく、営業マンの社内業務にも当てはまります。
日報や業務報告書の作成や朝礼等の社内ミーティングへの出席も営業マンにとっては重要な業務です。しかし、わざわざ日報や業務報告書を作成するため、あるいは朝礼や社内会議に参加するためだけに客先から事務所に戻ってくることは時間という観点で考えると決して効率的とは言えません。
日報や業務報告書は社外(例えば自宅)で作成し、上長にチャットやメール等で送る、あるいは共有サーバーにアップして上長に確認してもらうという方法をとることで移動時間は削減できます。
朝礼であれば、例えば毎週月曜日は社内に全員集まって顔を見ながら実施するが、それ以外はオンラインで実施という方向に切り替えることで移動時間を削減でき、時間効率を向上させることができます(毎日は朝礼をしていないという会社でも、月に1回は集まるがそれ以外はオンラインと読みかえていただいても良いです)。上長が個別の営業マンに状況確認やアドバイスをする際でも毎回直接顔を合わせる必要は必ずしもなく、オンラインで実施することも十分に可能です。
社内業務のための移動時間は本質的な付加価値向上(売上や粗利向上)につながる活動ではなく、また営業マン自身にも体力的な負荷がかってしまい、あまり意味を持ちません。
オンライン活用により社内業務の時間効率を向上させることができると、その時間を使って顧客との面談時間を増やせる、また残業時間を減らせる等の効果が見込まれます。
〇営業品質・教育の強化
「社内業務の時間効率化」というところで、上長から個別営業マンへのアドバイスをオンラインにすることにより時間効率を上げるということを書きましたが、オンラインテクノロジーを使うことで、時間効率向上だけでなく営業品質の向上にもつなげることができます。
過去に私がコンサルティングを実施したクライアントに、一人の営業マンが広範囲をカバーするため出張が多く、上長と営業マンとのコミュニケーションがタイムリーに取れないという課題を抱えている企業がありました。
上長は個別営業マンの状況が十分には把握できず適格なアドバイスができないため、業績に関しては「営業マンにお任せ」という状態にならざるを得ませんでした。
この課題はオンラインでのミーティングを導入することでかなりの部分が解決されました。出張先であっても上長とのオンラインミーティングを頻度良く設定し、進捗管理と対応策を個別に相談する体制を構築しました。その時の担当営業部長は「オンラインなのでかなりしつこく追えますし、頻度良くアドバイスすることでやるべきことの積み残しがなくなりました」と効果を実感され、実績を出されました。このようにオンラインテクノロジーを活用することで営業品質としても向上させることができます。
また、もう一つのオンラインの特徴としてあるのが、「録画できる」ことです。営業マン一人ひとりが対顧客にどのような営業をしているのかを録画することができます。録画したものを見直すことにより、各営業マンの強みや弱みがどこにあり、それをどう強化・改善していくべきかの重要な手がかりを得ることができます。また、優秀な営業マンはどのように顧客と接し、契約までつなげているのかのベストプラクティスが、印象ベースではなくファクトベースで(実際の動画を見ることができる)共有できます。録画ではなく録音でもできるのではないかという意見があるかもしれませんが、顧客に対して「勉強のために録音させてください」とは言いにくいということもあるでしょうし、また顧客の態度や表情まで含めて記録できるという点を鑑みると動画での記録のほうが営業品質強化という点では有効だと言えます。
コロナが収束した後のビジネスの世界は大きく変化し、その変化に如何に柔軟に適応できるかどうかは企業が生き残れるかどうかに大きく影響するでしょう。オンラインテクノロジーの進展はかなり高い確率でビジネスの世界で進むと思われます。この流れを掴み、営業の効率を上げ、厳しい競争環境を勝ち残っていただきたいと思います。
次回は組織・人事面からオンラインテクノロジーを活用すべき理由について述べます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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