第31回 中小企業経営者が行うべき不況への備え(第二弾 業務編)
中小企業経営者が行うべき不況への備え(第二弾 業務編)
前回のコラムでは「中小企業経営者が行うべき不況への備え 第一弾」として財務面と営業面の対策をご紹介しました。
前回のコラムから2週間ほどで日経平均株価は2万円を大きく割り込んで、今日現在では18,000円台まで落ち込んでおり、予断を許さない状況となっています。経済への影響は必至で、経営者はにとってその対応の重要性は益々大きくなってきています。
今回はその対応の第二段として業務面からの対策について解説いたします。
●業務面(主な目的:コスト削減を進める)
不況の時期において業務面で重要なことは「コストの削減」です。例えば、粗利25%の会社であれば、100万円のコスト削減はその4倍である400万円分の売上を上げることと同じ効果をもたらします。
今後予想される不況時においては売上を上げることが今までより難しくなるため、業績の維持にはコストの削減がより重要になるということはご理解いただけると思います。
ただし、ただ闇雲に金額だけを下げてしまうと短期的、中長期的の両面から事業推進に悪影響を与えてしまいます。事業への影響を最小限にとどめる範囲でコスト削減の余地がないかを検討することが重要です。単なる金額の削減だけでは自社の競争力の大きく削ぐことになります。
以下、業務の見直しによるコスト削減についての主な論点を見ていきましょう。
〇無駄な作業や業務の重複の排除、マニュアル化の推進
日常業務における無駄の排除は常日頃から意識して欲しいことではありますが、現実には業務推進に忙殺され、なかなか手をつけられていない中小企業がほとんどです。
コロナの影響で業務が減ることは決して良いことではありませんが、こういうタイミングだからこそ日常ではなかなかできなかった無駄の排除に着手しましょう。
「この業務の目的は何か?」「この業務は誰、あるいはどの部門のためにやっているのか?」を明確にすることから始めます。行っている作業の目的や、その結果出たアウトプットの使用者が明確にならない業務は思い切って廃止を検討して下さい。「止めてみて誰かが困るようならまた復活させれば良い」くらいの大胆な考え方が必要です。
また、業務の目的やアウトプットの使用者が明確であったとしても、作業者ごとにやり方が違う、あるいは同じ目的の業務を異なる部署が重複してやっている等の非効率がある場合はマニュアル化やルール化を徹底し、作業の無駄が発生しないように徹底しましょう。
目的や使用者が明確ではない業務をやっているということは、その業務時間がまるまる無駄になっているということを意味します。当然、その作業を行っている時間も人件費がかかっています。この無駄なコストを一つずつ削減して行きましょう。
また、作業の効率化を進めるにはITの活用が不可欠です。IT導入補助金が始まっていますので、必要に補助金等を活用しながら自社に適切なIT化を是非進めましょう。
〇業務負荷の平準化
中小企業の業務分析を行うと、一部の部署、あるいは一部の人に業務負荷が集中している場合があります。業務負荷が一部に集中してしまうとその部門やその人の担当業務がボトルネックとなり、業務全体の仕事の流れが非効率になり必要以上に時間がかかります。どこがボトルネックになっているのかを把握したうえで、業務負荷が集中している場合には人員の再構成や役割分担の変更を行い、負荷が出来るだけ均等になるように調整しましょう。
これにより各部門でのアイドルタイムが削減され、業務効率が向上します。その結果、不要な残業が減るばかりでなく、顧客対応のスピードアップや納期短縮につなげることが可能です。
〇仕入先の集約による条件変更
同じ商品やサービスを複数の企業から仕入れているケースはよくあります。リスクヘッジという点では仕入先の分散は合理的ですが、この仕入先が過度に多くなっているケースもあります。
仕入先が増えすぎている場合、仕入先を評価したうえで最小限の社数に集約しましょう。集約することで1社あたりの発注量を大きくできるので、その分のボリュームディスカウントの交渉をしましょう。仕入先にとってもメリットがある形で、自社としてはトータルの仕入額が削減でき、コスト削減につながります。
不況を理由に仕入先に一方的に条件変更を迫ることがよくありますが、これを実施してしまうと中長期的には仕入先との信頼関係を損なうことになり、決して得策とは言えません。先方にとってもメリットがある形で交渉をする方が効果を発揮しやすくなります。
〇外注先の条件見直し、内製化
自社にはないノウハウが必要なために一部の工程を外注している場合、まずは外注先と条件の見直しを交渉してみましょう。社内では実施できない業務を外注しているため、あまりに強硬に交渉をすると外注先との関係を悪化させてしまいその後の業務にマイナスの影響を与えるリスクがあります。交渉はバランスを重視して行いましょう。
今、外注先に依頼している工程を他の企業でも実施できる場合、外注先の変更を検討する余地があります。ただし、単にコストだけで判断をしてしまうと外注工程の品質が下がったり納期が遅くなってしまうこともありえますので、コストに加え、品質や納期等の要素も考慮したうえで検討しましょう。
「既存の外注先との条件交渉がうまく行かない場合には新規外注の検討をする」という位置づけで良いでしょう。
また、社内で実施出来ないわけではないが、社内ではペイしない、あるいは今までは社内の人員不足で対応できなかった等の理由から外注している場合、それらの業務を内製化することは検討に値します。不況で仕事量が減ってしまうと既存社員や設備のキャパが余ってしまうことがあります。既存社員や設備といった固定費は仕事量にかかわらず発生し続けるため、これらのコストから発生するマイナスをできるだけ小さくするという理由から内製化の検討は必要となります。
簡単に言えば、社内リソースを遊ばせておいてもコストはかかるので、それならば外注先に依頼していた仕事を内製して、外部に流出する資金を減らすことでマイナスを最小限にするということです。
〇広告費の再検討
広告を有効活用できるかどうは企業の成長にとって非常に重要ですが、一方で、効果の検証なく広告を惰性で出し続けている企業が多いのも事実です。不況時には一般的には広告効果が下がりやすくなりますので、期待する効果が発揮できていない広告は迅速に見直しましょう。
広告効果は下がっている中で、広告費総額を維持してしまうとは売上に対しての広告費率が上がってしまい、コストアップ要因となります。この点を考慮し、広告投資を見直しましょう。
〇間接業務を中心としたアウトソーシングの検討(BPO)
間接業務の中のルーティン業務(データ入力、給与計算やその他事務系業務等)についてはアウトソーシングを検討しましょう。昨今では品質面、コスト面でもかなりメリットが高いアウトソーシングサービスが出てきています。自社でスタッフを抱えて実施するよりも、コスト面・品質面でメリットが出せる可能性はあります。見積を取って比較検討するなど、今の間接業務をより軽くできないか検討してみましょう。
〇電気、ガス等の光熱費の見直し
特に製造業では電気やガス等の光熱費は大きなコストになります。近年は電力会社、ガス会社が自由に競争できる環境が整っています。過去から取引をしているからという理由で特に検討なく契約を継続している企業は多くありますが、これはコスト面で不利に働いている可能性があります。
一度フラットな視点で電気やガス代等の光熱費が削減できないか検討し、必要に応じて見積を依頼してみましょう。私の知っているケースでは電力会社とガス会社をコンペにかけただけで光熱費を2割程度削減できた事例があります。
〇業績にダイレクトには関係しないコストの削減
例えば業界団体の会費や業界紙の購読等、今までの付き合いで加入している団体等から発生しているコストについては削減の対象としましょう。「辞めると色々言われそうで、、、」と心配する経営者もいますが、実際辞めてしまうと思っているほどの影響はまず出ません。
また、接待交際費についても極力削減をするように努めましょう。夜の会食をランチ会にする等の対策を実施し、コストを削減している事例もあります。
接待交際費は完全にゼロにすることは難しいかもしれませんが、額を削減できる方法はありますので是非検討してください。
〇不良在庫の早期処分
不良在庫については倉庫代の削減というメリットもありますが、主な目的は多少の損を出したとしても可及的速やかに現金化し、キャッシュポジションを改善することです。
ただし、不良在庫の処分は特別損失を出すことになり、P/Lを痛めてしまいます。特損により決算が赤字になる場合は銀行からの評価に影響を及ぼす可能性もありますので、顧問税理士さんと相談の上で実施しましょう(このレベルの相談に対してアドバイスをもらえない税理士さんの場合、税理士さんの変更を検討しましょう)
以上、主な点について考察いたしました。業務については各企業それぞれに特徴がありますので上記の施策以外にも実施できるものがあります。自社の中で大きなコストとなっている費用からゼロベースで削減の余地がないか検討しましょう。
冒頭でも述べましたが、売上を伸ばす難易度が上がる時期においてはコストの適切なコントロールは企業の業績に大きく影響を及ぼします。この点を理解の上、コストの適正化を進めましょう。
※なお、当社では業務効率化やアウトソーシング(BPO)活用、光熱費削減等によるコスト適正化を実現するコンサルティングサービスを提供しており、複数の企業で実績を出しております。事前診断や個別相談に関心がある方は当ホームページよりお問い合わせください。
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