第5回 新規事業プラン作りに必要な着眼点(自社との適合度)
前回のコラムでは新規事業プラン作りに必要な着眼点として「市場の魅力度」
について述べました。「市場規模×成長率」で市場の魅力度を評価しますが、
特に成長率が重要だと述べました。
新規事業を行うにあたって、どの市場を選択するかは新規事業の成功確率だけでなく、
目指せる事業規模の大きさにも強く影響します。
この「市場の魅力度」に加えて、今回のコラムでは新規事業の成功確率に大きな
インパクトを与える「自社との適合度」について考えていきます。
◯自社との適合度
自社との適合度とは言い換えると
顧客が「買いたい」と思うような独自の価値を生み出せる経営資源がどの程度あるか
ということです。
言い換えると、顧客に価値を与えうる強みがあるか、ということです。
例えば
・技術的優位性を担保するような特許があり優れた商品を作れる
・競合が真似できない企業秘密がある
・設備が充実しており品質、コスト競争力ともに高い
・顧客の近くにおり、地理的優位性が高い
・独自の組織プロセスがあり、継続的に改善されている
・長い経験から蓄積されたノウハウが活用できる
・優秀な人材を多く抱えている
等、多くの切り口が存在します。
これらの独自の経営資源が新規事業にどの程度活用できるかが
「自社との適合度」
です。
「上記のような優位性がなくとも、全く新しい取り組みで成功している
ベンチャー企業があるのでは?」
と疑問を持つ方がおられるかもしれません。
確かにそのような事例がないとは言いませんが、成功しているベンチャーの多くが
経営陣が対象分野での高い知見や、独自のノウハウを持っている、あるいは持っている
人を主要メンバーに迎えているというケースがほとんどです。
そもそも新規事業の立ち上げには高いリスクが伴いますので、このリスクを適切な
水準に抑えるためにも、既存事業で培った経営資源や優位性を活用した新規事業プラン
を作ることが重要です。
「市場の魅力度」と「自社との適合度」
この両軸を抑えた上で成功する新規事業プランを評価しましょう。
上の図を簡単に解説します。
① 市場の魅力度「〇」 自社との適合度「〇」
この象限に入るプランが最も理想的で、絶対的にお勧めです。
中小企業の新規事業ではなく一般のベンチャーの場合はこの象限に入るプランで
なければ投資家からの資金調達は難しくなります。
中小企業の場合は投資家から資金を集めるということはさほどないと思われますが、
事業の成功確率と成功後の果実の大きさの両面を考えても、このエリアに入るプラン
を模索していくべきでしょう。
② 市場の魅力度「〇」 自社との適合度「×」
取り組むには相応のチャレンジングが必要なプランです。
魅力度が高い市場を対象とするビジネスには多くの競合他社が参入を目指します。
その分野で自社の適合度(強み)がない状態であれば成功確率は下がります。
市場の成長による後押しで参入企業全体が伸びるということはあり得ますが、
その成長がどこまで続くかは不確定です。
成長を維持するためには参入後に自社との適合度を高める努力は当然必要ですが、
それに加え他社とのアライアンス等も検討しながら成長を目指すプランになります。
③ 市場の魅力度「×」 自社との適合度「〇」
自社との適合度が高いプランなので、相対的にはリスクが抑えられたプランを作り
やすくなります。
ただし、市場の魅力度が低いため事業規模を大きくすることは簡単ではありません。
仮に自社の強みを活かしてそれなりのシェアを獲得できたとしても、市場の魅力度
が低いため売上の伸びはさほど期待できないプランになる可能性があります。
この点を考慮すると将来の自社の新しい事業の柱になることは難しいと理解の上で
取り組むべきでしょう。
④ 市場の魅力度「×」 自社との適合度「×」
取り組むべきではない象限です。
もしもこの分野での新規事業を中小企業が作ってしまったら、努力してもさほど
売上が伸びることがなく、結果として資金を失うだけで、財務基盤を大きく棄損
する可能性が出てきます。
この象限に入るプランに取り組むことはお勧めしません。
上記の通り、①が最も望ましいということは言うまでもないのですが、
「そんなプランはなかなか見つからない」
というご意見がよく出ます。
それでも何とか頑張って①に該当するプランを見つけてもらいたいところですが、
それでは新規事業が進まないという場合は②または③を検討します。
しかし、②なのか③なのか、どちらを選択するべきかは経営者の頭を大変
悩ませます。
企業のスタンスにより変わると言ってしまえばその通りなのですが、
私は企業が持つ財務基盤により方針は変えるべきだと思っています。
財務基盤が強い企業(中小企業では稀ですが)の場合は②の象限に入るプランを
目指します。
財務基盤が強い企業の場合、「とりあえず新規事業を成功させたい」という取り組み
では、意味がないとは言いませんが、戦略的意義はあまり見い出せません。
今の財務基盤を有効に活用して、
「将来の事業の柱となりうるような新規事業を生み出す」という目的を持って
事業推進することが求められます。
将来の柱となる事業構築を目指すのであれば、売上もそれなりの規模を目指すこと
になります。市場の魅力度が低いプランでは仮にそれなりにビジネスになるうように
なったとしても、将来の新しい事業の柱というレベルまで規模を持つことは難しい
でしょう。
自社との適合度の問題はありますが、前述の通りその後に独自に強化する、
あるいはアライアンスを検討するという方針をとれるのであれば成功の確率
を高めることは可能です。
市場の成長性が高いプランであれば自社との適合度の弱さをある程度カバーして
くれることもありえます。
一方で、財務基盤がさほど強くない(弱い企業は新規事業ではなくまずは
本業をしっかり立て直すべきです)企業の場合は③の象限に入るプランから
スタートすることも有効です。
新規事業はどんなプランを作ったとしても相応のリスクがあります。
不幸にしてうまく行かなかった場合はある程度の財務的ロスが発生します。
こうならないよう、成功した時の旨味は小さいかもしれないけれども、
まずは自社の強みを活かした成功確率が高いプランを作る方が合理的です。
ただし、先にも述べているとおり、③のプランである程度の成功を収めた
としても将来の柱になる規模まで成長することは難しいため、次の新規事業
プランに取り組む必要があります。
③のプランでの成功を社内のノウハウとして、その次のプランでは①に
入るプランを模索してもらいたいところです。
今回のコラムでは新規事業プラン作りに必要な二つの視点である
「市場の魅力度」と「自社との適合度」
のうち、「自社との適合度」という視点について考察してきました。
次回のコラムでは事業プラン作りについて検討していく予定です。
長文、お読みいただきありがとうございました。
よろしければ次回のコラムもお読みくださいませ!
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