第4回 新規事業プラン作りに必要な着眼点(市場の魅力度編)


これまで3回のコラムでは新規事業を行う上での下準備的な内容を書いてきました。
今回のコラムでは実際に新規事業創出に取り組むための内容を書いていきます。


新規事業プランの作成においては、まずは求めるプランの大枠を提示した上で、
プラン評価の軸を示すことが有効です。


プラン評価の軸で一般的に用いられることは多いのは
「市場の魅力度」と「自社の優位性の活用可能性」の二つの軸です。


今回のコラムでは「プランの大枠と基準」と「市場の魅力度」について述べます。


◯プランの大枠の基準の決定


「今までの考えに囚われることなく自由な発想で考えてほしい!」
企業が新規事業プランを募集する際に時々聞くフレーズです。


この募集方針について皆さんはどのように思われるでしょうか?
「社内活性化のためにはこれくらい自由度があったほうが良い」
と考える方もいるかもしれません。


しかし、私はこのような募集はお勧めしません。
このような募集をすると選考プロセスが煩雑になり非効率になること
に加え、プランの質が低くなる傾向があるからです。


私がコンサルティングをする場合には
「新規事業のフェアゾーンとファウルゾーンの区切りを明確にしましょう」
とお伝えします。

例えば
「B2Cビジネスは対象外」
「プランの中に必ずAI等、最新のITテクノロジーが活用されていること」
など、

「◯◯であること」または「◯◯でないこと」

といった大枠を決めておくことです。


また、これに加えて、「「5年以内に5億円の売上を目指せるプラン」など、
ある程度の規模感についても事前に決めておくことをお勧めしています。


フェアゾーンとファイルゾーンの明確化と規模感の基準を提供することで
あまりにも奇をてらったプランや会社の将来にほとんどインパクトを
与えないようなプランが出てくることを防ぐことができます。


プランを考える側にとってはアイデア発想の枠を設定することができ、
会社が求めるような新規事業プランをより精度高く考えやすくなります。


基準を設けた後は実際にプランを募集し、評価を行います。


中小企業の中にはプランの評価をどのようにすれば良いのか分からず、
何となくの感覚(例えば社長はじめ役員の興味に合うプラン)でプランの
選定をしている企業が一定割合あります。


この方法でも「経営者のカン」で運良くうまくいくケースがないとは
言いませんが、高い確率で成功させようと思うのであれば合理的で納得性の
高い評価軸を設定したうえでプランの選定をしていくことが求められます。


新規事業プランの評価において一般的に有効性が認められているものが、
先に述べた「市場の魅力度」と「自社の優位性の活用可能性」の二つです。


◯市場の魅力度


「市場」という言葉は広く一般的に使われている言葉ですが、使用する人
によって微妙に意味合いが違うのではないかと感じることがしばしば
あります。


このコラムでの市場は「顧客の集まり」のことを市場と呼ぶこととし、
競合企業等は含まないということにさせていただきます。


市場の魅力度は一般的には「市場規模の大きさ」と「市場の成長性」
という二つの視点から評価します。


言い換えると、
「対象となる商品を求める顧客がどのくらいいるか」
と、
「そのような顧客は今後増えるかどうか」
ということです。


一つ目の視点は市場規模の大きさです。


「想定される市場規模が大きければその市場を対象とした新規事業が成功
した際には大きな売上、利益をもたらすことができる」

と、通常は考えます。


しかし、そもそもの目標売上が相対的にはさほど高くない中小企業の新規事業
の場合、市場規模はさほど気にする必要はありません。


プランの大枠の中で売上額を基準に置いている場合は、その売上額が達成できる
ということが合理的に想定できる程度の市場規模さえあれば、それ以上なくても
問題はありません。


もちろん大きな市場を狙って悪いということは必ずしもないのですが、規模が
大きな市場には既に大手の競合企業が多く参入しており、さらに今後も参入企業が
増える可能性が高くなります。


このような厳しい競争環境でも戦える体力がある企業であれば良いですが、
経営資源が限られる中小企業の場合、それは難しいでしょう。


むしろ基準とする売上があげられそうな規模があるニッチ市場を狙った方が
成功確率は上げやすくなります。


このようなニッチ市場の場合、強力な既存プレーヤーが存在する確率は低く、
また大企業がその市場に参入してくる可能性も低いため中小企業でも十分に戦える
競争環境の中で事業を展開することができます。


これらの理由から、中小企業が新規事業を展開する際には
「基準とする売上額を獲得できることが合理的に推定できる程度の規模がある市場」
を狙うことが大原則だと考えます。


二つ目の視点は市場の成長率です。


中小企業の新規事業の場合、市場規模よりもむしろ市場の成長性の方が
重要性は高いです。


日本経済全体の成長が鈍っている中で成長市場を見つけることは決して
簡単ではありませんが、ニッチ市場をターゲットとした場合、成長分野を探す
ことは決して不可能ではありません。


大きな視点で市場を捉えた場合は成長してなくても、市場を細分化した場合には
成長分野を見つけることは可能です。


もちろんそのような市場にも競合の参入が考えられますが、ニッチ市場の場合は
そもそもの市場規模が小さいため大企業が参入する可能性は低く、多くの場合は
参入してくる企業は中小企業になります。


中小企業とは言え競合が参入してくるというデメリットは考えられますが、
市場の成長がもたらす事業への後押し効果の方がが競合が参入してくるデメリット
を上回るケースは多くあります。
(言い方を変えると、それくらい事業を後押ししてくれそうな成長分野を選ぶ)


仮に、現状の市場規模はある程度はあるものの、マイナス成長の市場で新規事業
を立ち上げることは極めて難易度が高いチャレンジとなります。縮小していく
市場を既にその市場に存在する競合他社と取り合って勝利しなければ結果を出す
ことはできません。


もちろん既存プレーヤーの商品やサービスを研究して、それを改善すれば一定の
マーケットシェアを取ることは不可能ではないでしょう。


しかし、仮に競争に打ち勝ち短期的にある程度の成功ができたとしても、将来的
には市場が縮小していくことになり、この点を考慮すれば成功してもその見返りは
中長期では限定的で、次世代の柱となる事業に成長することは難しいでしょう。


既存プレーヤーの商品やサービスを改善する労力を割くのであれば、どうせなら
成長市場でビジネスする競合企業のものを改善して参入した方がよほど大きな成果
が期待できます。


また、将来的にベンチャーキャピタル等の外部投資家から資金調達を考えている場合
(例えば新規事業部門を分社化して外部からの資金も受け入れるような場合)、成長市場で
ビジネスを作ることは必須となります。


投資家はそのビジネスが成長市場にあるかどうかをかなり重要視します。縮小市場で
戦ってしまうと外部投資家からの資金調達は難しいと考えた方が良いでしょう。


以上、今回は新規事業プランを作りに当たり
まずは「新規事業の大枠と基準を決めること」
「市場の魅力度」を判定する上で市場規模と成長性について考察しました。


次回は
「自社と適合する市場」
を検討した上での最終的な新規事業プラン選定方法について考察します。

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