第006話 スタートアップにおける採用について


スタートアップにおける採用について

 

スタートアップにとって人材は語る必要がないくらい重要です。しかしながら、採用はかなり難しいのが現実です。私が教えているビジネススクールのクラスでも、「採用は慎重に。妥協して採るのは後々大変なことになります。特に最初の10名はこだわって採用してください」とお話しします。

 

成長するスタートアップでありがちなのは、「業務量が急激に増えてきて猫の手も借りたいくらい忙しくなってきた。何とかこの現状を打破するために採用をしたい。しかしながら、スタートアップの悲しいところでそんなに良い人材がすぐに採用できるわけではなく、応募してくる人材は自分たちの基準よりもやや下回る人材ばかり。仕方なく、その選択肢の中から一番良さそうな人を採用する」という採用です。

 

この採用は仕方がないように思うかもしれませんが、多くの場合、後々会社にとって問題となります。

 

この時に採用した人材が思い通りにパフォーマンスを出せず、会社としてどう使えばいいかわからない。スタートアップなので、成果が出ない人材をそんなに長期間抱えている余裕もない。正直辞めてもらいたいが、解雇もできない、という事態になることが多々あります。

 

残念ながらこのような人材は組織の中で不満分子となることも多く、いわゆる「腐ったミカン」になり、周りにも悪影響を及ぼします。そうなると組織は雰囲気が悪化し、全く機能しなくなります。経営陣としてはこの対応だけでも結構な労力を割かざるを得なくなります。

 

一方で、「妥協するなというのは簡単だけど、スタートアップではいい人材はなかなか採れません。妥協するななんて、実務をあまり知らないのでは?」などと、少し厳しめのコメントを頂くこともあります。

 

この意見、実際に経営をしている方にとっては「その通りだ」と思うところもあると思いますが、ここで重要なのは「妥協してはいけないポイントはどこか」ということです。

 

(私はあまり好きな表現ではないですが)「Aクラスの人材」という表現があります。ここで言うAクラスとは、学歴があって、経歴も良く、能力が高くて、人柄も良い、みたいなイメージかと思います。こういう人材を採用しようという考えです。ただ、現実はスタートアップの給与水準でこのような人材を採用するのは正直かなり難しいです。その意味では、こんな人材を採用しようなどとは非現実的だ、という意見にはそれなりに合理性があると私も思います。

 

ただ、スタートアップにおいて妥協してはいけないポイントは上記のような学歴や経歴などとは少し違う気がしています。

 

学歴は必要ないと思いますが、今までの経歴が事業に活かしやすいとか、もともとの頭の回転がいいということは確かにあった方が良いです。しかし、スタートアップが採用する際に妥協してはいけないのは、その人材が「自分を成長させるために変化を厭わないマインドを持っているか」だと思います。

 

スタートアップは目まぐるしく事業内容が変化していきます。前職の経歴やスキルを活かしてビジネスをしようとだけ考えている人は、当初はそのスキルを活かして活躍できたとしても、やがて会社の成長についていけなくなります。当初はエース級でも、そのうちその立場を担えなくなります。

 

一方で、経歴やスキルはAクラスとは言えないとしても(もちろん一定水準は必要だと思いますが)、本人が会社の成長と合わせて自分も成長させようというマインドを持っている人は実務を経験しながらどんどん成長していきます。将来的にはこういう人材が組織の中心となります。スタートアップでいう、妥協してはいけないポイントは「会社の成長と合わせて、自分も成長していきたい」というマインドを持っているかどうかだと思います。その意味で、過去の経歴やスキルにこだわらず変化に柔軟に対応できる人材です。

 

最初の10人にこだわるというのは、数年後はこの10人のうち何名かが組織の中心人物になるからです。ここで妥協してしまうと、その妥協が後々の組織文化に影響していき、結果として組織の活力を失わせるようになります。

 

私がサポートさせてもらっているスタートアップのCFOの方で、これを体現している方がいます。この方は当初はいわゆる「Aクラス」の人材ではなかったと思います。しかしながら、本人は寝る間を惜しんで勉強するし、また私にもいろいろ質問をしてくれるし、また丁寧に報告をしてくれて、私がするコメントを一生懸命メモされる方でした。

 

この方は、今では立派なCFOとして経営者からも全幅の信頼を置かれて業務をされています(もちろん私も完全に信頼しています)。この方は、常に自分をバージョンアップしていきたいといマインドを持たれていました。短期間で急激に実力を身に着けらたと思います。

 

一方で、鳴り物入りで入ってこられた方は半年程度で退職せざるを得ないというケースもあります。

 

この差は、「成長していこう!」というマインドの差だと思います。

 

「変化を厭わず、自らを成長させていきたいという強いマインドを持つ人材」がスタートアップにおけるAクラス人材の特長です。このような人材を採用する努力をしてもらえると、より活力がある組織が作りやすいのではないかと思います。

 

 


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